三脚の知識(その2)カーボン三脚のメリット
写真用の三脚として初めてカーボン素材を使った三脚が販売されたのが1994年。それ以前にカーボンパイプが存在しなかった、というわけではなく、かなり高価なものとなるために製品化できなかったというのが実情です。カーボンは航空機や宇宙関連で使われることからわかるように、強度がありながら軽量というメリットがあり、放送用など、価格を度外視できるものでは前から採用されていたものでした。(放送用の三脚は100万円コースというものもあるため、一般写真用に比べかなり高価です)炭素繊維の原材料そのものは日本の素材メーカーで製造しており、パイプとして加工するのは、フランスのカーボン加工メーカーや日本国内のメーカー、最近では中国でもパイプを加工するメーカーがあるといいますが、三脚のパイプとして完成させるには、表面の平滑性や寸法精度、パイプ内側の仕上げなど、かなりの技術を必要とします。太いパイプの中に細いパイプの中にしまいこむという構造から、単純にはできないのです。
いずれにせよ、90年代中盤から終わりにかけて各社がカーボン三脚を製造、販売となりました。
カーボン三脚が認知される前では「非常に高価でメリットが見えにくい」製品でした。以前は「三脚は重ければ重いほどいい」といって売っていたわけですから。
カーボン三脚発売当時はとんでもない「売り文句」がありました。
「カーボン三脚は軽いけど、その値段と同等のアルミ三脚と同じ実力がある」といって売り文句を聞いたことがあります。
しかしこの説明は無理なことをいっています。
当時のカーボン三脚は中型クラスのサイズで、一眼レフ+望遠レンズか、中判+標準レンズ、といったところが対応する機材でした。価格は6万円から8万円くらい。アルミの三脚なら「大型から超大型」の製品と同等の価格です。
先の説明通りなら「超大型クラスアルミ三脚が対応する、超望遠や大判カメラでも余裕で対応できる」ということになるでしょうが、これは無理です。
この言葉を信じて買った人もいたのでしょうか、中型クラスのカーボン三脚に実力以上の機材を載せて使う人もいました。
このようなスタートをきったカーボン三脚は、実力以上の機材を載せて使用され「軽いけど使えない」という誤った評価を受けました。
実際のところ、カーボン三脚の価値は次のようなものです。
・ アルミ三脚に比べ、20%から30%軽量化できる。(比較対象は同等クラスのパイプ径を持つアルミ三脚)
・ 振動減衰性に優れている(ブレが伝わりにくい。ただしアルミ三脚は重さでブレを抑えている面もあり、先の説明以上の実力にはならない)
・ 寒い場所でパイプに触れても冷たくない。(=熱が伝わりにくい)
間違って伝えられている欠点は次のようなものです。
・ 雷が鳴っているところで使うと、雷が落ちてくる。(カーボンの釣り竿には雷が落ちやすいと聞いたことがありますが、電気の導通はアルミもいいため、雷が鳴っている中では使わない、というのが本来でしょう)
・ 確かに軽いがブレが収まらない(実力以上の機材を載せたせいだと思われます。パイプ径28mm前後が中型、デジタル一眼+望遠レンズに対応しますが、フルサイズデジタル一眼レフなどさらにブレが目立つカメラなら、一回り大きい「大型」を選ぶ必要があります)
カーボン三脚は当初、価格と軽量化のわかりやすさのバランスから、各社「中型」をラインナップしました。その後、カーボン三脚の価格が受け入れられるようになってから
「価格は高いけど、大型機材にも対応できる大型・超大型カーボン三脚」
「軽量化のメリットは見えにくいけど、剛性が高い旅行用カーボン三脚」
といったラインナップを各社が作るようになってきました。
現在のスリックでは、下記のような区分でカーボン三脚を販売しています。
パイプ径22mm(旅行用)
カーボンスプリント 624PRO、カーボンスプリント 634 PRO
パイプ径24-25mm(小型、軽量デジタル一眼レフ用)
カーボンマスター 713 FA-BK、カーボンマスター714 FA-BK
カーボンマスター 723 PRO、カーボンマスター 724 PRO
カーボン 723 EXII、カーボン
724 EXII、カーボン 723 FA、カーボン 724
FA
パイプ径28mm(中型、一般的なデジタル一眼レフ用)
カーボンマスター 823 PRO、カーボンマスター 824 PRO
パイプ径32mm(大型、ハイエンドデジタル一眼レフ、300mmクラス大口径超望遠レンズ用)
カーボンマスター 923 PRO、カーボンマスター 924 PRO
パイプ径36mm(超大型、大中判カメラ、600mmクラス大口径超望遠レンズ用)
グランドプロ CF-4、グランドプロ CF-3SP
単に「カーボンだからよい」というだけでなく、きちんと使う機材にマッチした三脚を選ぶことが重要なのです。
カーボン三脚は安価ではないからこそ、機材にあった製品のセレクトが重要なポイントです。是非、正しい三脚選びをしてください。
※この記事は「全連通報」(全日本写真材料商組合連合会の機関誌)に連載している「売り上げ増につながる!写真用品の知識」を一般向けに加筆・修正したものです。
※内容の引用等、ご活用ください。