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スリック史(その4)

1972年には、大型三脚として、マスターよりも大型の「プロフェッショナルデザイン」を「プロフェッショナルデザインII」にモデルチェンジしました。

マスターよりも大型の三脚で、3ウェイ雲台を搭載した写真館用三脚として、「マスタープロ」も発売。この製品はスリック三脚の製造ではなく、スリック産業(スリックの販社)が長野県にある三脚メーカーにOEMとして供給を受けたものでしたが、品質は決していいものではなく、すぐにスリック三脚が自社製品として代替品を開発。1972年に「マスタープロII」として発売されました。

 

 

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スリック マスタープロII(1990年まで製造・販売された)

 

1974年、スリックの英文表記を「SLICK」から「SLIK」と変更しました。SLICKは「滑らかな」という意味がある単語ですが、これをそのまま商標登録できなかった、ということが原因のようです。製品に記載のロゴからSLICKSLIKかで、1974年以前製造か、以後製造かということを区別することができます。

 

スリックは「プロ用の三脚ブランド」として、日本でも世界でも有数の存在となりました。

しかし、多くのカメラユーザーは記念写真撮影に「ダボ式(8段など)」の三脚を使用していました。

スリックは1976年に技術的なブレイクスルーを狙い、雲台や脚締め付け部にプラスチックのパーツを使用し、さらにアルミパイプを薄いアルミ板を連続溶接して造る「電接管」によって超軽量な製品を実現した「500G」を発売しました。

500Gは製品名の通り500gを目指して設計。畳んだ長さを40cm以下として「折りたたみ傘」をイメージし、持ち運びが苦にならないことを目標にしました。コードネームはSL-38。ダボ式の三脚の最安値よりも安い3,800円をターゲットプライスとしました。

販売会社であったスリック産業もプロをターゲットとした販売から、より大衆品とした販売ターゲットに向けた販売を模索。海外のスリック代理店もそれまでと全く違う製品にとまどったものの、今までにない販売を記録しました。

スリック三脚も新しい製造設備を日高工場に造り、24時間体勢で生産。数年で累計100万本の売り上げを達成しました。

しかし、ヒット商品に追随する海外コピーも発生。台湾ではSLOKという名称でコピー品を造る会社も現れました。

しかし、本物のように十分な強度がなく、プラスチックパーツがすぐ破損するひどいコピー品であったようです。

500Gには派生モデルとして、より背が高く、安定するようにステーを追加した800G、一脚の200G、さらにコンパクトサイズのミニボーイ400G2段エレベーターのガリバー450Gなども発売。500Gをベースとしたテーブル三脚「プロミニ」も登場しました。

 

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オリジナルの500g

ごく初期のみ「g」と小文字で表記。プラスチックの部品も当初はクリーム色だが、すぐにグレーに変更となった。

 

1978年、スリックは「三脚にできることは何でもやってやろう」というコンセプトで作り上げた新型三脚「88D」を発売します。

それまでの「システム三脚」は、三脚の機能をシステムで考え、撮影目的に合わせて「組み替えて」使いやすくカスタマイズするものですが、88Dは一つの三脚で多機能を求めたものです。システム三脚のコンセプトの発展型とも考えられますが、脚パイプ以外の主要パーツにプラスチックを使った構造であり、脚の伸縮固定は横開きのレバー式(ワシづかみレバーロックとし、上段・下段のレバーを一度に操作できるとしていました。ライバルメーカーのベルボンが縦方向のレバーロックにしていたため、それに対する対抗でした。)を実現するなど、大きくスタイルを変えていました。スリックのメイン製品である「マスター」よりも安く、ラインナップの中の普及型に位置するところはシステム三脚と同じではありますが、全く違う内容の製品でした。

スリックはこの製品を開発するにあたり、設計者を武蔵嵐山の社長に別荘に集めました。そのため、製品名は「RANZAN」と名付けられる予定でしたが、海外では発音できないという理由からボツになりました。

末広がりで縁起がよいという数字「8」を二つ連ねて「88D」と名付けられました。日本向けとヨーロッパ向けは88D、対米輸出向けは「U212」と名付けられました。

88D3段 ¥15,800:シルバー、¥17,300:ブラック 1978-1985

カメラ取付がクイックシュー式(カメラアダプター式)、無段階開脚機構(上段パイプ中ほどに取り付けられた締め付けツマミの操作で通常開脚からローポジションまで可変)、レバー式脚ロック、玉式水準器(今のような気泡ではなく、小さなプラスチックの玉が転がって水平を表示)、エレベーターにプラスチックのベアリングを使用し滑らかな感触を確保など・・・

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88D

 

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幻の「Ranzan」名の銘板

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販売された「88D」と異なるデザインの試作機